ぶつけた歯の黒ずみ

pic 09歯をぶつけた後、色が変わってくるのは、歯中央の軟組織である歯髄が変性したことをあらわします。ただし、ぶつけた直後と2,3カ月以降におこる変色では意味合いが異なります。ぶつけた直後の淡い変色は、いわば歯髄の内出血と考えてよく、多くの場合自然に消退していきます。これに対して、2,3カ月以降に観察されてくる灰褐色の着色(写真参照)は、歯髄の活性が徐々に失われ歯髄死に至る(失活)兆候を示します。歯髄壊死により、根尖周囲の歯肉が赤く腫れたり膿をもったりもします。

 

失活の診断には、現在のところ、歯に微弱な電流を流してその反応の有無により判定する方法(電気的歯髄診)が最も用いられます。乳前歯は6,7歳に交換しますので、失活してもすぐに根の治療(感染根管治療)をするわけではありません。レントゲン写真を撮影し、歯根周囲の組織(歯根膜や歯槽骨)に炎症症状が確認された際に根管治療を行います。症状が著しい場合には、直下にある後継永久歯へ影響を及ばせないために、あえて乳歯を抜去することがあります。

歯をぶつけてぐらぐらした時は、放置せず、両隣りの健康な歯を含めて数週間固定し、歯髄と歯周組織の安静を図らなくてはなりません。また、動揺が治まった後も歯髄が失活することがありますので、長期的な予後観察が重要です

 

上唇の裏側 上唇小帯について

上唇の裏側の長い筋は、口腔粘膜の一部が歯肉に付着するひだであり、上唇小帯と呼ばれます。乳児期の上唇小帯は相対的に太く、上顎乳切歯が萌出した頃では、左右中切歯間の歯肉の位置まで付着部位が伸びていることがあります(高位付着、写真参照)。その後、歯槽骨の水平的な発育は乳臼歯の萌出が完了すると微々たるものとなりますが、垂直的な発育は幼児期を通じてゆっくりと続き、上唇小帯の付着部位は徐々に上がって歯から離れていくのが一般的です。

 

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3歳児歯科健診の際、上顎中切歯間に空隙(正中離開)があり、かつその近くまで上唇小帯が伸びている場合に、離開の原因と考えられて手術を勧められることが多いようです。しかし、上顎の乳歯列では歯と歯の間に生理的な空隙がある子どもの方が多く、小帯の付着部位も変化しますので、手術の必要はほとんどありません。

7,8歳頃、上顎乳切歯4本が永久歯に交換しても数mm以上の正中離開が残り、かつ小帯付着部位が上顎左右中切歯の間を通り越して裏側の歯肉まで達している場合に、小帯を一部きりとって伸ばす手術(小帯伸展術)を考慮します。